どうですか? ノーアクセントの高速シングルストロークが続く場面では、腕は移動だけに使い、主に指でストロークする、グラッドストーン奏法の特徴が見られます。
そして、連打の中にアクセントを入れたり、高速のシングルストロークを使わない時は、肩やヒジの回転する、モーラー奏法の特徴が出ているのが分かると思います。
つまり、バディ・リッチやデニス・チェンバースは、モーラーだから速いのではなく、グラッドストーンだから速く、モーラーだからパワフルで、表現力も豊かなのです。
これは、この二人に限らず、トップドラマー達は、たいてい、モーラーとグラッドストーンを適材適所に使い分ける、グラッドモーラーとでもいうべき奏法で演奏しています。
そういえば、バディ・リッチがグラッドストーン奏法を身につけた経緯は、第一章で書きましたが、モーラー奏法の方は、どうやって身につけたのでしょうか?
当たり前の事ですが、サンフォード・モーラーに奏法を習ったのは、ジム・チェイピンだけではありません。
有名な直弟子の1人は、ジーン・クルーパです。ジーン・クルーパこそが、初期のセットドラミングにおけるモーラー奏法を代表するドラマーなんです。
そして、モーラー奏法そのものは、サンフォード・モーラーが書籍化する、はるか以前から「軍楽隊のスネアドラム奏法として」存在していた事実も忘れてはいけません。
ジャズ草創期のドラマーは、ほとんどが「軍楽隊のスネアドラマー出身」ですから、ジャズ初期には、むしろ、モーラー系のドラマーは多数派だったのではないでしょうか?
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