しかし、バディ・リッチの凄さは、全く次元が違うものです。
たとえば、すでに本人の生演奏が聴けない現在では、バディ・リッチの「パワー」が実体験出来ませんから、多くの人はおそらく「所詮、ジャズドラマーだから」と甘く見て、まさか、バディ・リッチが、ジョン・ボーナムのような大音量で演奏していたなどとは思っていないでしょう。
ところが、バディ・リッチの第一に凄いところは、ジョン・ボーナム並か、それ以上のパワーで、あのスピードドラミングを晩年まで行なっていたということなのです。
ウソだと思う人は、ぜひ、DCIビデオ『Buddy Rich Jazz Legend: Part2 1970-1987』を手に入れて下さい。
ビデオ冒頭部で、ジョン・ボーナムも真っ青の物凄い音色でドラムを炸裂させている、60才代(1980年代)のバディ・リッチを見る事が出来ます。もし、ジョン・ボーナムが存命だったとしても、60歳過ぎてこんな音は絶対に出せなかったでしょう。
これは、無理やりスポーツに喩えていうなら、バディ・リッチだけが、年齢に関わらず「短距離走のスピードでマラソンが走れた」…というようなものです。事実、デニチェンでさえも超高速シングルストロークではパワーが落ちますし、長くてもせいぜい4小節でしょ?
ところが、バディ・リッチの場合、1曲通して速いなんてことは日常茶飯事で、それが何曲も続いたステージの最後に延々とドラムソロをやり、さらにその最後に、極めつけの大パワー&超スピードのシングルストロークを炸裂させ、その後も曲に戻って叩きまくる(例:『ウエストサイド・ストーリー』)などということを、69歳の晩年までやっていたのです。
今現在、パワーやスピードを誇って君臨している若いトップドラマー達の、いったい何人が60歳を過ぎても同じパワーとスピードを維持できているでしょうか? 文字通り、バディ・リッチの凄さは「ケタが違う」のです。
また、バディ・リッチのドラミングがどんなに大変なものなのかは「コピーしてみようとして初めて分かる」…というものが多いです。どんなに速いフレーズでも、パワーが落ちずに、ハッキリ音符が聴き取れるため、聴いているだけだと「出来そうな」気がしてしまうのです。
たとえば、CD『BIG SWING FACE』に入っている、『LOVE FOR SALE』後半ブレイクの、3小節余りのアクセント付きシングルストロークは、ファンには有名なフレーズで、簡単に耳コピーできますし、譜面にしてみても実にシンプル↓です。
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