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★ マイナー(短調)恐怖症


「マイナー恐怖症」とは、移動ドで「ラシドレミファソ」な音階(*1)に代表される「短調」の曲に恐怖を感じるという症状(?)のことです。

「なんじゃそりゃ?」と言われるかも知れませんが、僕は小さい頃、確かにこれだったんです。

楽曲には、大まかにわけて、メジャー(長調)とマイナー(短調)があるわけですが、僕は子供の頃、短調の曲がどうにも恐ろしくて、とうてい好きになれなかったのです。

今になって振り返って分析してみると、どうやら幼い僕は、曲がマイナーだと、どんな曲であれ真っ先に「破滅」とか「死」を連想してしまい、それが恐怖につながったようです。

たぶん、当時のアニメなんかで、人が死んだりする場面になると、必ず「過剰に悲壮感をあおるマイナーな音楽」が流れていた、そのせいだと思うんですけどね…。

で、そういう状態でマイナーの曲を聴くと、具体的に、どう感じるのか。たとえば、有名な「赤い靴」という歌があります。

赤い靴、はいてた女の子
異人さんに連れられて行っちゃった

 (〜中略〜)
今では青い目になっちゃって
異人さんのお国にいるのだろう


*1 文章内の音階表記は、すべて「移動ド」で書かれています。

初めてこの曲を聞いた時、大変に恐ろしいと思いました。なにしろ、この曲は「ラシドレミ〜」という、マイナーの上行形そのままの音階で「あかいくつ〜」と歌われ始めるのです。

冒頭から、すでに「不吉な予感」に満ち満ちています。この女の子には、尋常ならざる不幸が起きたに違いないと思わせる始まり方です。

しかも、直後の歌詞には、正体不明の“イ〜ジンさん”なる、幼児の理解・想像を超えた謎の人物に「連れられて行っちゃった」と。そう、少女は拉致されてしまったんです(ぉぃ)。

「ああ、だめだ。この子は既に死んでしまっただろう」と僕は思いました。イ〜ジンさんから改造手術を受けて青い目になってしまっただけじゃなく、残酷な人体実験の果てに、既に殺されてしまったに違いない…。


「歌詞」にはその事実が語られてないけど、メロディには暗示されている(*2)んだ。じゃなきゃ、あんなに暗い、不吉な始まり方である必要はないじゃないか…って。

だからもう、この曲を聴いたり歌ったりするのは、僕は嫌で嫌で、「なんで皆は平気で、こんな恐ろしい歌を楽しそうに歌えるんだろう?」と思っていました。

*2 メロディと歌詞の関係については、今でも気になります。パロディや狙いじゃなく、歌詞とメロディがミスマッチな曲は、聴いてて、かなりイライラします(笑)。


また、似たような曲で「月の砂漠を〜」というのがあります。

これも、歌詞だけ読めば「王子様とお姫様が、砂漠をゆっくり旅して行く」という内容ですが、そのメロディゆえに、僕には、王子様とお姫様は、最後には砂漠の真ん中で道を見失い、食べ物も水もないまま飢えて、死んで乾いてミイラになってしまうという歌に思えるのです。

あるいは、王子様とお姫様は許されない恋の果てに、心中目的で、あてもなく砂漠への旅に出たのかも知れません。きっと二人は、誰も訪れることのない砂漠の砂の下で、折り重なって干からびているのです…。

そうそう、「雪のふる街を」…というのもありました。これも、希望に見離された男が、故郷を遠く離れた見知らぬ北国で、雪道に倒れて凍死する…という歌だと思っていました。

だって、冒頭のメロディは、ショパンの『幻想曲へ短調Op.49』の序奏そのままであり、つまり『葬送行進曲』とも似ているんですから、作曲家は絶対に狙ったに違いないのです。(当時はそんな知識は無かったですが:笑)

ちなみに、「遠い国からおちてくる」という所だけ明るくなるのは、人生最後の走馬灯に、過去の楽しい思い出が駆け巡っている瞬間の描写だからだし、最後がメジャーで終わるのは、魂が天国に着いたのを描写しているからでしょう…。

歌詞の無い曲、たとえば「ラーミミミ・ミーレミファー」と始まる『金婚式』も、「もうすぐ金婚式だったのに、お爺さんとお婆さんは亡くなってしまった。…でも、きっと天国で金婚式をあげているよね」という風に感じてしまうのです。

思春期になっても、この傾向は続き、さすがに恐怖症状態は脱したものの、「マイナー嫌い」なままでした。一般に「日本人はマイナーを好む」らしいのですが、僕がマイナーな曲を好きになり始めたのは、30歳を過ぎてからです(苦笑)。

ビートルズが好きになったのも、メジャーの曲が多く、たとえマイナーでもサビでメジャーに転調することが多いので「救われる」感じがしたからでしょう。その証拠に、マイナー色の強い『ミッシェル』や『ガール』なんかは、やはり苦手でした。

なにしろ、イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』の良さが分かったのも、つい最近になってからなんですよ。あれほどの名曲でもダメだったんです(苦笑)。

その他にも、たとえばヘビーメタル系の音楽は、ほとんどがマイナーだからダメ、当然、ベートーヴェンみたいにマイナー系を得意とするクラシックの作曲家もダメでした。

そんな僕が若い頃一番好んだのは、沖縄の音楽でした。なにしろ、沖縄の代表的な音階「ドミファソシド」には、マイナーの条件である「短3度」の音程が無いんですから、絶対マイナーにならない! 非常に安全です(笑)。

だから、気候風土への憧れもあって、ず〜っと沖縄に行きたいと思っていました。
(結局、行かないままで今日まで生きて来てしまいましたが:苦笑)


そんな風ですから、作曲をやるようになってからも、作る曲はメジャーキーばかりで、たまに作るマイナーの曲は、非常にオドロオドロしい、破滅的で、救いのない内容(*3)でした。

でも、20代半ば頃から、少しずつ分かって来たんですよ、「マイナー嫌い」なせいで、いかに「損」をしてるかということが。

だって、この世界に存在する、メジャーな曲とマイナーな曲の数の割合は、おそらく半々くらいでしょ? 「マイナーの良さが分からない」ということは、イコール、音楽を聴く楽しみの半分を失っている…ということじゃないですか。

それに、作曲をやる仲間達が、10代の頃はメジャーの曲ばかり書いてたのに、20代に入ると続々とマイナーの曲を書くようになって、その事実に焦ったのもあります(苦笑)。

たぶん、当時流行り出していた「アダルト・コンテンポラリー」と呼ばれた音楽の影響だったんでしょうけど、「アダルトな感じ」は、マイナーの方が出しやすいですからね。




*3 15才当時に書いた曲の詞(一部)
明日 何処かの家の食卓に並べられる
運命の牛達が 屠殺場へなだれ込む
人間達は笑いながら 抵抗する牛どもを殺し 分解して行く


しかも、作曲に慣れて来て、複雑なコードを使ったりし始めると、マイナーの方が色々と可能性が高くて「作り甲斐」がある。そういう事が分かって来たんです。

これは何とかしなくちゃ…と思って、つとめてマイナーの曲を聴いたりと、努力を始めましたが、なかなか難しかったですね。嫌い…それも、ほとんど生理的に受け付けなかったものを好きになるなんて、そうそう出来るものじゃありません。

それでも、僕がマイナー嫌いを克服出来たのは、「ブルース」と「レッド・ツェッペリン」のお陰だったと思います。

僕が一緒に演って来たメンバー達には、アドリブ・セッションをやるのが好きな奴が多くて、3コードで、リズムだけ変えて3時間とか、そういうのを平気でやるわけです。

で、3コードといえばブルース、使う音階は「ブルーノート」です。これの面白い所は、たとえキーがメジャーでも、3度の音がフラットするという事です。

仲間とセッションを繰り返しているうちに、3度がフラットする状態に慣れることができたんでしょう。そして、まず「ブルースが好き」になった。

それと僕は「風変わり」というか「ちょっとヒネくれた」音楽が好きなので、当時よくコピーしたバンドの中なら、整然としてポップなディープパープルより、ブルース色が強くてクセのあるツェッペリンの方に、より強く惹かれてました。

で、20代後半頃から、ツェッペリンのアルバムを1枚ずつ買っていったんです。そして、買うたびに、毎日ヘビーローテーションで聴くようになって…。

とはいえ、マイナー色が特に強い「アキレス最後の戦い」なんかは、やっぱり苦手で、最初のうちは、途中でスキップしてましたけどね(苦笑)。

それでも、ほとんど毎日、ツェッペリンばかりを聴く日々が、数年間も続きました。

中でも一番聴きまくったのは、2枚組みの『フィジカル・グラフィティ』だったと思いますが、1枚目1曲目の「カスタード・パイ」で目覚め、1枚目が終わったら2枚目をCDプレイヤーにセットして…という事をくりかえしていました。

そしてやがて、2枚目1曲目の「イン・ザ・ライト」にハマッた。この曲も、典型的なマイナーではなく、サビではメジャーに転調する「救い系」の曲ですけど、もう、プレイヤーを「1曲リピートモード」にして、延々何時間も。

すると、最初のうちは、前半の陰鬱なマイナー・パートで溜まったストレスを、サビの「救い」パートで発散して快感を得る…という聴き方だったのが、いつしか、前半の陰鬱パート自体が気持ち良くなって来たんですよ。

つまり、ベルを鳴らしてから犬に餌をやるのを繰り返すと、やがて犬は、ベルの音を聞いただけでヨダレを垂らすようになる…のと同じ「条件反射」ですね(笑)。

しかも、「イン・ザ・ライト」冒頭からボーカル入ってすぐのバックには、マイナーの「ラシドレミファソラ」を変形したような音階が繰り返されていて、それが、聴くたびに「快感を約束するフレーズ」として、脳に刷り込まれて行くわけです。

こうして、ようやく僕は、30年も苦しんだ「マイナー嫌い」から解放され、より多くの音楽を楽しめるようになったのです。

いや〜『ホテル・カリフォルニア』は、やっぱり名曲でした。エンディングの「泣きのツインギター」なんか、ホントに、たまらなく良いですよね。やっと分かりましたよ(笑)。



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