さて、ここまで見て「これがモーラーなの? たいして速くねえじゃん」とか思った方がいたら、「モーラー=スピード」という考え方は、そろそろ捨てて下さい(^^;;;
もちろん、ハイレベルにマスターしたモーラーなら、グラッドストーン程ではなくても充分以上な速度が出せますが、「モーラーだから速い」というのは、勘違いですので。
この勘違いが起きた原因の一つは、おそらく…
「モーラー奏法とかいうのがあるらしい」(問題なし)
↓
「バディ・リッチに代表される奏法らしい」(ほぼ正しい)
↓
「バディ・リッチといえばスピードが凄い」(非常に正しい)
↓
「モーラー奏法はスピードが凄い」(それは違う!)
…という、バディ・リッチに関する、間違った連想でしょう。
そして、もう一つの大きな原因は「ジム・チェイピンの奏法こそが、モーラー」だと思ってしまった事です。
VHSでもDVDでも、持っている人は、ぜひ確認して欲しいのですが、ジム・チェイピンの、あの有名な教則ビデオの正式な題名は『スピード・パワー・コントロール・持久力』です。
題名のどこにも『モーラー』という言葉は入っていません。
それどころか、ビデオケースの表面にも、背表紙にも、裏面にも、一切『モーラー』という言葉はないのです。
(※カタカナではなく、英語でも入ってませんので、念のため(^^;)
そして、ジム・チェイピンはビデオの中で、モーラー奏法だけでなく、ジェイ・バーンズモアと、ジョージ・ローレンス・ストーンから教わった奏法も紹介しているのです。
ジョージ・ローレンス・ストーンは、ビリー・グラッドストーンと共にグラッドストーン奏法を確立した人じゃないですか!
つまり、ジム・チェイピンの奏法は、単なるモーラー奏法ではなく、グラッドストーン奏法の要素も含んだ『チェイピン式モダン・モーラー』とでも言うものだったという事です。
さらに困った事に、あのビデオの中で、ジム・チェイピンは、モーラー奏法の説明をしながら、速い領域になると、何も言わずにグラッドストーン奏法を混ぜてしまっています。
モーラー=スピードという誤解が生じたのは、バディ・リッチやジム・チェイピンの「グラッドストーンの要素が混じった」奏法を「これぞモーラー」だと思ってしまったからだったのです。
その認識では、より、モーラー本来の形に近い奏法を見ても「速くないからモーラーじゃない」とか、グラッドストーン奏法を見て「(速いから)モーラーだ!」とか思ってしまうのも当然です。
その延長線上で、デスメタルとかグラインドコア等のドラマー達が、異常な速度で演奏しているのを見て「モーラー奏法だ!」と思ってしまっても、全く不思議はないでしょう。
ついには、「デスメタルをやりたいからモーラーを習おう!」という人までが出て来てしまうという現状に繋がっているわけです。
しかし、本来のモーラー奏法は、スピード面より、パワーやアクセント表現、そして、多彩な音色変化の面に、優位性があります。
そこで今度は、モーラー奏法を、主に「パワー」や「ダイナミクスと音色変化(による表現)」の方向に利用しているドラマー達を紹介していきます。
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