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★ ビートルズのドラム疑惑について。その3:ドラマー・リンゴを検証する
※検索等でいらした方に。この文章は<3部に分かれている長文の一部>です。
 途中だけ読むと文意を誤解される可能性がありますので、ご面倒でも最初から読まれる事をオススメします。


はじめに…。「ドラマーとしてのリンゴ・スター」とはいえ、この文章の性質上、ほとんどが「ビートルズ在籍時」に限定した内容になります。その点はご了承下さい。

ちなみに個人的には、アルバム『ジョンの魂』でのドラミングが、リンゴ・スターのベストプレイであり、ドラマーとしての個性が最もはっきり現れていると考えてますが。

さて、まずはビートルズの公式発表曲のうち、「リンゴのプレイではない」事が、様々な資料から明らかになっている曲を除外しましょう。以下の通りです。


※これを書くにあたり、チャック近藤氏著
『ビートルズサウンズ大研究(上下)』
を参考にさせて頂きました。
  チャック近藤氏オフィシャルサイト

  1. ラブ・ミー・ドゥ(*1) (アンディ・ホワイト)
  2. P.S.アイ・ラブ・ユー (アンディ・ホワイト)
  3. バック・イン・ザ・U.S.S.R (ポール・マッカートニー)
  4. ディア・プルーデンス (ポール・マッカートニー)
  5. ワイルド・ハニー・パイ (ポール・マッカートニー)
  6. マーサ・マイ・ディア (ポール・マッカートニー)
  7. ジョンとヨーコのバラード (ポール・マッカートニー)
(3.〜6.はホワイト・アルバムに収録)

*1 詳しい方はご存知の通り、アンディ・ホワイトは当時のスタジオ・ミュージシャン(アラン・ホワイトとは無関係)で、非常にソツがなく、控え目ながらもメリハリの効いた手堅いプレイだと思います。
 リンゴが叩いているバージョンも、CD『パストマスターズ1』に収録されてますが、ちょっとメリハリに欠ける感じで、特に、ハーモニカの間奏の後のクラッシュに迷いがあって、この曲に関しては、アンディ・ホワイトの勝ちかな…と。


こうして見ると、けっこうポールがいっぱい叩いてますね(笑)。そして、ほとんどが『ホワイトアルバム』の楽曲であるという事も分かると思います。前回書いたように「リンゴ脱退未遂事件」がありましたからね。

で、ポールはドラムも意外に上手くて『ディア・プルーデンス』のフィルインなんかは、同じ左利きだからということもあってか、リンゴの感じにかなり似てて混乱させられます。
 (僕もつい最近まで『ディア〜』はリンゴだと思い込んでました:笑)


それでも、今回聴き込んでみて、リンゴとポールのプレイをハッキリと聴き分ける簡単な方法を発見しましたので、書いておきます。興味のある方は、ぜひお試し下さい。
 (何度も書きますが、良いヘッドホンで聴くこと をオススメします*2)

一番の違いはキックの音です。リンゴのは「ドンッ!」と音圧を感じる音ですが、ポールのキックは、奏法のせいか「ドッ」と短くて、バランス的にも小さいです。

あと、ポールのドラミングは、リンゴと比べてしまうと「ハイハット・クローズの音色やダイナミクス」に芸が無さすぎます。





*2 ちなみに、これを書いた当時の僕は、SONYのMDR CD900STを使用していましたが、諸事情により、これから買おうという方には、KOSS SportaProがオススメです


というか、『サージェント〜』以降の録音に顕著な「8ビートのハイハット1打1打の音色や長さ、ダイナミクスを変化させる」アプローチこそが、非常にリンゴ・スター的な独特のプレイだと僕は考えてるんです。

一番分かりやすい例は『ドント・レット・ミー・ダウン』だと思いますが、こんなにハイハットの音を変化させるロックドラマーは、他にちょっと思い付かないです。

で、ビートルズ初〜中期の頃はともかく、後期のリンゴは、この手法を活かすためなのか、基本的にハイハット・クローズの音をいつも「長め」…つまり「ルーズ」にしているんです。

けれども、今回僕が「怪しい」と言ってる『アイ・ミー・マイン』とか『ユー・ネバー・ギブ・ミー・ユア・マネー』では、なぜか、ハイハットがとてもタイトな演奏で、クローズとオープンがハッキリし過ぎてる気がするんですよ。


ところで今回、大のビートルズファンでもある、古くからの友人に、バーナード・パーディの教則ビデオを見てもらった所、以下のような意見をもらいました。

「シンバルの使い方、特にライドのカップの使い方なんか、本当にリンゴそっくりだね。右利きのセットで、左側のシンバルがライドっていうのも同じだし、タムの音も似てるよ…」

「1940年生まれ? じゃあリンゴと同じだね。どっちが影響を与えたのか、受けたのか…って感じだな」

「これは何曲か叩いてる可能性があるね…。いや、きっと叩いてるよ!

この友人は、僕が最初に所属したバンドのギタリストで、現在も演奏活動を続けていて、少なくとも僕の友人達の中では最もビートルズに詳しい人です。

その彼がパーディのプレイを聴いて「きっと何曲か叩いてるよ!」というのですから、疑惑はにわかに真実味を増して来た…と言いたい所だったのですが…。

↓バーナード・パーディのセット↓
(教則ビデオ『マスター・オブ・ザ・グルーヴ・ドラミング』時)

bp_set.gif
ハイハット側のシンバルをメインのライド兼クラッシュとして使用。チャイナシンバルは上下逆にセットされていて、2枚目のライドとしても使われる。(ベルカップも使う)
 タムは大小の順番が通常とは逆になっているのが特徴。また、フロアタムだけミュートしており、タムに比べてサスティンが短い。
 (映画『レット・イット・ビー』で確認出来るが、リンゴは、フロアタムだけ裏ヘッドを外して、サスティンを短くしている。)
※リンゴはラディック、パーディはソナーで、メーカーも時代も違うのに、なぜか各タムの音程差や音色が似通っている。

映画『レット・イット・ビー』を検証してみると…


前回も書いた通り、『アイ・ミー・マイン』に関しては、映画『レット・イット・ビー』の中に演奏映像が残っています。

今回、上述の友人の好意で、映画『レット・イット・ビー』を大変久しぶりにビデオで観られたのですが、結論から言うと『アイ・ミー・マイン』は限りなく白に近い…つまり、リンゴ本人のプレイである可能性が非常に高いです。

以下、僕がそう判断するに至った経緯を詳細に書きます。

詳しい方はご存知の通り、映画『レット・イット・ビー』に収録されている『アイ・ミー・マイン』の演奏映像は、正式に録音されるよりも1年も前のリハーサル風景です。


で、なぜかジョンは演奏に参加せず、ヨーコとワルツを踊っている(*3)んですが、かなり印象的な映像なので、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか?

そして、CD『レット・イット・ビー』(同ネイキッド)や、『アンソロジー3』に収録されているのは、なんと、ラストアルバム『アビー・ロード』完成後の1970年1月3日に、休暇を取っていたジョン以外の3人が集まって録音したものとされています。

しかし、録音されたのは、わずか1分34秒の短いバージョンであり、それを1970年3月になってから、フィル・スペクターが編集して2分25秒に延長したものが、アルバム『レット・イット・ビー』に収録された事になっているのです。



*3 ジョンとヨーコの踊りは、映画の都合で後から撮影されたものだと思いますが(同じスタジオ内だが周りに誰もいない)、なぜかジョンは、この時の演奏に参加していなかった(?)ようですね。
 だとすると、ジョンは『アイ・ミー・マイン』に関しては、映画撮影時のリハーサルにも参加せず、本番の録音時にもいなかった…という事になります。ちょっと不思議。


ドラムプレイそのものだけでなく、こうしたレコーディング経緯の不自然さもあって、当初僕は、『アイ・ミー・マイン』を最も疑惑度の高い曲と考えていました。

そして、映画『レット・イット・ビー』の映像を確認すれば、かなりの確率で「リンゴのプレイではない」証拠が出てくると予想していたのです。

ところが、実際に映画を見てみると、1年も前のリハーサルにしては、『アイ・ミー・マイン』のリンゴのプレイは、レコードになっているものと、そんなに差はありませんでした。

レコードと大きく違うのは、ジョージが「フラメンコ風」の間奏を弾いている点ですが、ドラムに関しては、ハイハットの部分がライドで刻まれているだけで、基本的な演奏アイデア、タイミング、フィール等に大差はありません。

そして、僕が一番「パーディっぽい」と感じていた、3拍子からシャッフルになる部分のライドシンバルのカップの入れ方なども、タイミング、フィール共にレコードとの違いは全く感じられませんでした。

それどころか、映画『レット・イット・ビー』全編に渡って、リンゴのプレイには何ら問題を感じる部分など無く、むしろ「リンゴ、上手いじゃん…」思ってしまう場面の方が多かったのです(苦笑)。


一部だけ、明らかに後から「当て振り」撮影を行なったと思われるシーンも発見しましたが(*4)、それ以外の映像と音声には全く矛盾も無く(*5)期せずして、ドラマーとしてのリンゴを見直す結果になってしまいました(苦笑)。

控え目に言っても『ゲットバック・セッション』以降のリンゴは、充分以上に優秀なドラマーであり、誰かに差し替えを依頼する必要など全く無いと思います。

ただし、何らかの理由で「リンゴが録音に参加出来なかった」場合など、「プレイに共通点が多かった」パーディが、影武者をつとめたというような事があったのかも知れません。

でも、事実はどうあれ、これ以上の詮索は無用でしょう。
『サムシング』や『ユー・ネバー・ギブ・ミー・ユア・マネー』に関しては、検証するための資料も殆ど無いですしね…。

いずれにしても、「リンゴ・スターは、そんなに下手なドラマーじゃなかった」というのが、今回の結論です。

確かに、タイムの悪いプレイや、「こなれていない」プレイも多く残ってますが、あのスティーブ・ガッドだって良い時と悪い時の差は激しいですし、ジョン・ボーナムなんか、酷い時は本当に酷いですからね(笑)。

ちょっと、一般にドラマーとしてのリンゴの評価は低すぎる気がしますので、これに関しては、また機会を改めて書いてみようと考えています。

では最後に、あちこちで議論されて来た『アイ・フィール・ファイン』のドラミングの謎を解明して、終了する事とします。



*4 中間部の『トゥ・オブ・アス』から続く数曲の部分は、レコード用の音源がほぼ確定してから、当て振りで演奏シーンを撮ったものですね。以前は、あれも全部その場での生演奏だと思ってました(苦笑)。


*5 1960年代の映画という事で、映像と音声の同期精度がイマイチ(ほとんど音声の方が遅い)だったため、何度も見直さなければなりませんでしたが(苦笑)。







★真相判明!★(2009/01/31)
メールで大変貴重な情報を頂きました。
なんと、パーディがビートルズの音源でドラムを叩いたのは事実であり(ただし、初期の曲ですが)、それらの録音にはリンゴが参加していない事も、間違いなく事実だと判明したのです。
詳しくは、リンク先でお読み下さい!

おまけ:『アイ・フィール・ファイン』の真実。


『アイ・フィール・ファイン』は、間違いなくリンゴのプレイです。

証拠は、アルバム『HELP!』の『ザ・ナイト・ビフォー』のサビ部分にあります。よ〜くドラムを聴いて下さい。マラカスの音が邪魔ですが『アイ・フィール・ファイン』と同じパターンです。

ただし、『アイ・フィール・ファイン』のドラムトラックには「回転操作がされている」という点が違うのですが。

ドラマー以外には分かりにくいかも知れませんが、『アイ・フィール・ファイン』のライドやハイハットの音は、ちょっとピッチが高いんです。いつものリンゴの音じゃないんです。

★ 驚愕の事実!(2005/10/17追記)
『ザ・ナイト・ビフォー』のように「そのものずばり」ではないですが、なんとリンゴは『アイ・フィール・ファイン』の手順をライブ時の『ティル・ゼア・ウォズ・ユー』『ミスター・ムーンライト』『ベサメムーチョ』等にも使いまわしていたという事が分かりました。「リンゴじゃないんじゃないか?」どころか、あの手順こそリンゴの18番だったのです!!(爆笑)
※ある生徒さんがビートルズをコピーするというので、改めてCDを聴き直していて気が付きました。『アイ・フィール・ファイン』に関しては、これで完全決着でしょう。


つまり、『アイ・フィール・ファイン』では、ドラムだけが回転を落として録られているということです。(*6)

どの程度の回転操作がされたのかも、すでに実験して判明しています。『アイ・フィール・ファイン』のドラムは、約3〜4%遅い状態で録音されたんです。

疑う人は、SoundEngine Free、Audacity等のフリーソフトを手に入れて、再生速度を、0.96〜0.97倍にして再生してみて下さい。

いつものリンゴのシンバルやハイハットの音になって、テンポも『ザ・ナイト・ビフォー』とほぼ同じになります。

当時の録音ですから、クリックなどは使われてませんが、ジョンのギターが、イントロからエンディングまでずっと途切れずに入っているので、それをリズムガイドにしたのでしょう。

『アイ・フィール・ファイン』に、あの時期のビートルズ録音の常識であるパーカッション類のオーバーダビングが全くされていないのは、おそらく、ドラムを録り直すために1トラックを空けておかなければならなかったからだと思います。



*6 コピーしてみれば分かりますが『アイ・フィール・ファイン』のパターンを、原曲通りのテンポで叩くのは至難の技です。リンゴも、ジョンが要求したテンポでは良いテイクが録れなかったのではないかと…。
(『ザ・ナイト・ビフォー』のテンポなら問題なく叩けたのでしょう)


1.疑惑の経緯
2.怪しいと思う理由
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